社会福祉法人の指導監査において口頭・書面で指摘されるおそれのある事項についてまとめました。お役立てください。
目次
法人運営
□会計計責任者に辞令交付なし
会計責任者、出納職員等には必ず事例を交付します。
□経理規程に「勘定科目の別表」の添付なし
「計算書類の勘定科目は別表のとおりとする」という文言が経理規程にある法人は要注意。
□法人本部の拠点区分又はサービス区分の設定なし
法人本部拠点は設けなくてもいい場合がありますが、法人本部サービス区分は設定するべきです。
□低リスク運用
保有している有価証券はリスクが小さいものかを判定します。
□定款変更の登記
定款変更の承認が下りた後すみやかに登記を行っているか。
□定款記載の事業
行われている事業について、すべて定款に記載されているか、あるいは、定款に記載されているにも関わらず行われていない事業がないか(定款と実施事業が一致しているか)をチェックします。
出納
□法人運営と関連性が低い支出
下記のような支出は注意が必要です。
私有車のガソリン代・車検費用/役員の懇親旅費交通費/家電購入
□通帳と印鑑の別々保管
通帳の管理と印鑑の管理は一人で行ってはなりません。
横領の温床となることを防ぐためです。
お金の出入りについては、内部牽制機能を働かせなければなりません。
職員一人が預金の出金を自由にできる体制は不適切なため、複数職員による照合が大切です。
堅固な金庫等による保管や、現金出納簿のこまめな記載も有効です。
□収入した現金の預け遅れ
原則として、利用料など収入された現金は、小口現金以外は経理規程に定める期間中に預金口座に納入しなければなりません。
現金は経理規程に定める期間内において、こまめに金融機関に預け入れることが、不測の事故を予防します。
できるだけ現金は取り扱わずに、預金を介した取引をするのが望ましいです。
□会計責任者の承認なしの支出
社会福祉法人の支出は必ず会計責任者の承認の下で行います。
□小口現金保管額が経理規程の上限超過
小口現金保管額が実情にそぐわなければ、経理規程の改定も検討します。
□利用者の預り金に係る不適切処理
法人通帳や小口現金のみならず、利用者預り金についても額の大小を問わず、残高と帳簿の照合をこまめに行うことが重要です。
また、残高がわずかであっても簿外経理は行うべきではありません。不祥事・横領の温床となるリスクが高いためです。
【経理事務】
□理事長が月次試算表を確認していなかった。あるいは、そもそも月次試算表が作成されていない
理事長は、経理規程に定める期限までに月次試算表を毎月作成・確認しなければなりません。
□法人本部の運営に要する経費を本部サービス区分から支出せず
理事会・評議員会などの会議費用、資産総額の変更登記などの経費は本部サービス区分から支出されるべきです。
□寄附金の不適切な取り扱い
寄附は頂いたつど適切な会計区分に計上する必要があります。
現金での寄附でも物品での寄附でも申込書・領収書を発行し、寄附台帳を作成します。
後日寄附者から使途の照会等の可能性もありますので、寄附に関しては慎重に事務を行うべきです。
決算における附属明細書の作成事項でもあります。
□費用の支払いが大きく遅延している
経理規程において「請求のあった日の翌月○○日までに支払う」とされている場合、期限を遵守します。
□概算払いの誤謬
概算払いした経費は支出時点で仮払い処理を行い、後日精算し費用計上と差額の戻入処理を実行します。
また、経理規程によっては会計責任者への精算報告必要となります。
安易に職員間で処理せず経理規程を遵守することにより、内部牽制機能を働かせることができます。
□契約事務の不適当
予想される契約金額により、相見積もりで十分だったり入札が必要だったり、求められる選定方法がことなります。
高額の支出の場合には、経理規程を確認することが必要です。
□旅費規定の順守
役員の出席旅費は旅費規定に定められた額で支給されているかどうか、確認します。
□給与規程の順守
給与規定と実際の支払いが一致しているかどうか(給与規定と違う支払いをしていないか)を確認します。
事務局長や常務理事の給与が理事長の一存で決まっている場合は注意が必要です。
決算
□減価償却計算において償却率を誤っていた(耐用年数を誤っていた)
耐用年数が異なると、年々の減価償却費が変わります。法人によっては億単位の減価償却費が発生しますので、固定資産取得時の耐用年数の設定は慎重に行わなければなりません。
構造(鉄骨なのか鉄筋コンクリートなのか)や用途の選択、また、建物と建物附属設備を分けていない等が事例で挙げられます。
□1年基準による振替処理の不適用
特に負債の部において1年基準の適用は大切になってきます。
□内部取引の消去もれ
繰入金に関しては消去もれが見つけやすいですが、法人内部で清掃委託等を行っている場合、売上と業務委託費の相殺消去を見落としがちです。
□貸借対照表の前年度末と当年度期首額が不整合
決算の照合においては、前年度計算書類等における年度末の額と当年度計算書類等における「前年度末」の額を照合することは基本です。
□借入金明細書の作成忘れ
期末に残高がゼロとなる借入金に対しても、決算において借入金明細書の作成は必須です。
理事長など、役員からの借入金について作成を失念する事例が散見されます。
□残高証明書と貸借対照表の不一致
貸借対照表に記載されている預貯金額と、金融機関の発行する残高証明書が一致しない事例です。
預貯金だけではなく、小口現金や積立資産についても裏付けをとるようにしましょう。
□注記事項の記載もれ
計算書類において「法人全体」および「拠点区分ごと」に注記の作成が定められています。
注記事項に該当がない場合には、事項によって記載自体を省略できるものと、「該当なし」と記載するものがあるため、留意する必要があります。
□未払固定資産の不適切会計処理
年度終わりに取得して供用を開始した固定資産について、支払いが完了していないことは固定資産計上を行わない理由になりません。
供用開始していれば、会計処理(取得・減価償却等)を行い、また固定資産台帳へ記載することが必要です。
指導監査においては契約書によって判明するケースが多いようです。
□計算書類と附属明細書の不一致
附属明細書は、計算書類(CF、PL、BS)の内容を補足する事項を表示するものであるため、計算書類における各金額と一致していなければなりません。
決算においては計算書類等の整合性に十分注意する必要があります。
予算
□補正予算の未編成
社会福祉法人は予算を超える支出が見込まれる場合は、あらかじめ補正予算を編成することとされています。
補正予算を編成しないまま予算を大幅に超過して支出が行われていることは、法人運営にとって望ましくありません。
就労支援事業
□工賃の支払不適切
就労支援事業所は、生産活動に係る事業の収入から必要経費を控除した金額を利用者に工賃として支払わなければなりません。
毎年度適切に工賃が支払われていれば、就労支援事業において剰余金は発生しませんが、支払いが不適切であると剰余金が発生し、積み重なることで多額になります。
就労支援事業においては法定積立金が2種類認められています。
- 工賃変動積立金
- 設備等整備積立金
適切に支払い・積立を行うことは利用者の福祉に資することにつながります。
保育園
□積立資産積立と当期資金収支差額
積立支出と当期資金収支差額の合計額が、拠点区分の事業活動収入計の5%を超過した場合、所轄庁へ「収支計算分析表」を提出する必要があります。
□当期末支払資金残高
保育園においては、当期末支払資金残高は委託費収入の30%以下とするのが必要です。
超過が見込まれる場合は、承認を得て積立金を積み立てるなど対策を講じます。
超過すると、超過額が解消されるまでの間、改善基礎分について加算が停止されます。
□資金の繰替運用
委託費の同一法人内における各施設拠点区分への資金の貸付は、経営上やむを得ない場合に年度内に限り認められます。
年度を超えて貸し付けが行われていると指摘事項となります。
役員
□理事会の定足数
理事会を開く際、三分の二以上の理事が出席しているかを確認します。
□欠員・欠席
役員の欠員状態が長く続いていないか、また、欠席が多い役員がいないか、がチェックされるポイントです。
□役員の資格
「親族等特殊関係者」が法律において許可される数を超えて加わっていないか、注意が必要です。
また、役員就任の際には必ず身分証明書を頂きます。「役員の欠落事由に該当していないかどうか」を確認するためです。
□報告
監事監査の報告を理事会で行っているかどうか。
理事長の専決事項を理事会において報告しているか。
上記が気をつけるべきところです。
参考リンク
指導監査について参考となるページをリンクとして置いておきます。